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位置的頭蓋変形症とは? ―「赤ちゃんの頭のかたち外来」でお伝えしたいこと

こんにちは。けやき脳神経リハビリクリニック院長の林です。
当院では2024年12月より「赤ちゃんの頭のかたち外来」を開設し、脳神経外科専門医である私が拝見しております。9か月が経過した現在(2025年9月10日)、合計140名の赤ちゃんにご来院いただきました。そのうち約半数の75名で「ヘルメット治療」を実施しております。

最近では街中でもヘルメットを装着した赤ちゃんを見かけることが増えてきました。しかし、まだ十分に知られているとは言えず、「なぜ治療するの?」「必要なの?」といった疑問や、偏見を持たれることもあるようです。
そこで今回は、

  • 赤ちゃんの頭ななぜゆがむのか?
  • 「赤ちゃんの頭のかたち外来」では何をするのか?
  • 本当に治療は必要なのか?

といった点についてお話しします。


1.赤ちゃんの頭の形はゆがみやすい

赤ちゃんの頭の骨はまだ柔らかく、脳の成長に合わせて広がる仕組みになっています。頭蓋骨同士は隙間があり、1歳前後までに少しずつ癒合していきます。
この柔らかい状態で同じ方向にばかり寝かせていると、頭の底面が平らに変形しやすく、これが「位置的頭蓋変形症」と呼ばれる状態です。

日本における研究によると、生後1か月の時点で実に65%の赤ちゃんに「軽度以上の変形」がみられると報告*1されています。つまり、特別なことではなく、誰にでも起こりうる現象と言えます。

よく、赤ちゃんのあたまの形に悩まれている保護者の方は、自分たちのやり方が悪かったのではないかと自分を責めてしまう方がいらっしゃいますが、その必要はございません。

                       *1 加藤ら 「新生児・乳児の頭蓋変形」日大医誌 82 (4): 203-209 (2023)


2.ゆがんだ頭は何が問題なのか?

現在までの多くの研究では、軽度の頭の変形が直接的に脳の発達や認知機能に影響を与えるという確固たる証拠は見つかっていません。 頭蓋骨は成長に合わせて形を変え、脳の発達を妨げることはないと考えられています。そのため、軽度の場合は美容上の問題と見なされることが一般的です。

一方で中等度から重度の頭の変形と、認知機能や学業成績の低下傾向との関連性が報告されている研究は存在します。しかし、この関係性は「因果関係」ではなく、「相関関係」である可能性が高いのではとも指摘されています。つまり、頭の変形が直接的に認知機能の低下を引き起こすという証明されたデータはなく、発達や成長に問題があると、特定の向きに寝ることが増え、頭の変形を来しやすいのではないか、ということです。

これらを考えると、「脳の機能をよくするために、頭の形を整える」というのは、誤りと言えるでしょう。とはいえ、「見た目」の面は重要です。強い傾きがあると眼鏡や自転車用ヘルメットが合わないといった不便が生じる可能性はあります。また、整った形の方が将来の本人やご家族にとって安心につながることも多いでしょう。

その意味で、赤ちゃんヘルメット治療は「歯科矯正」と似ています。見た目を整えるために器具を一定期間使う点が共通しており、しかも歯科矯正と違い「痛みがない」ことが大きなメリットです。


3.「赤ちゃんの頭のかたち外来」ですること

「頭のかたち外来」では、赤ちゃんの頭のかたちに悩む保護者の方にまずお話を聞くことから始まります。多くのお父さん・お母さんは頭の形に悩まれ、いろんな取り組みをされて当院の外来にたどり着かれています。いつ頃からゆがみに気づいたのか、ゆがみは悪化してきているのか、といったお話をお聞きします。

そして、成長や発達に異常を認めていないかという点を確認いたします。1カ月健診や3か月健診で異常を指摘されていない、ミルクをきちんと飲めている、などのお話しをお聞きます。成長や発達に異常がある場合、非常にまれではありますが「頭蓋縫合早期癒合症」などの病気によって頭の形が変形している可能性があり、注意が必要です。(頭蓋縫合早期癒合症については、また別途ブログでご紹介したいと思います。)

これら問診の情報と、診察(頭の形の目視、および縫合線の確認)によって、多くの場合「位置的頭蓋変形症」かどうかの判別がつきます。場合によってはレントゲン撮影にて頭蓋縫合の確認をさせていただく場合や、形成外科にご紹介することがあります。

その上で、より正確に判定をするために3Dカメラ撮影を推奨いたします。頭の形のゆがみが正常なのか異常なのか、異常であれば軽症であるか重症であるかは、今後の治療方針に影響します。

当院では「ベビーバンド」を取り扱っているBerry社と契約しており、Berry社の推奨する3Dカメラを用いて計測を行っています。

では「位置的頭蓋変形症」と診断された場合は何をすればよいのでしょうか。以下にまとめましたのでご参照ください。

生後3か月未満の場合

  • 首が座っていない3か月未満は「ヘルメット治療」の対象外となります。
  • 軽度であれば自然に改善することもあります。
  • 向き癖がある場合は、寝かせる向きを意識的に変えましょう。
  • 移動は縦抱きが理想で、ベビーカーやバウンサーの使用は最小限が望ましいです。
  • 2か月を過ぎたら「タミータイム(うつ伏せ運動)」を取り入れると効果的です。
  • 重症度が高い場合、上記対策で様子を見たうえで、3か月たってからの再度カメラ撮影を推奨いたします。

生後3か月以降の場合

  • 軽症であれば自然経過を見守る選択も可能です。上記3か月未満の対策を実践し、経過をみていきましょう。
  • 中等度~重度の場合は、ヘルメット治療を検討することを推奨いたします。

まとめ

赤ちゃんの頭の形のゆがみは、誰のせいでもなく自然に起こるものです。
脳への影響はなく、見た目を整えるための治療という位置づけになります。ご家庭での工夫で改善する場合もあれば、ヘルメット治療を取り入れることでより安心できる場合もあります。

大切なのは、「知っていること」。正しい知識を持つことで、ご家族が不安にならずに選択できると考えています。頭の形で悩まれている保護者の方は、是非お気軽に当院「赤ちゃんの頭のかたち外来」にお越しください。

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次回は「カメラ測定での判定方法と、ヘルメット治療の原理」についてお伝えします。