脳萎縮を止めるには?初期症状・原因・MRI検査・改善策を解説【医師監修】

「最近、物忘れが多い」「集中力が続かない」――もしかすると、それは脳萎縮の初期サインかもしれません。
脳萎縮とは、脳の神経細胞が減少し、脳の体積が縮む現象です。放置すると認知症や判断力低下を招くこともありますが、早期発見と生活習慣の改善で脳萎縮を止める・遅らせることは可能です。
しかし、その原因や進行を理解し、適切な予防・改善策を講じることで、脳の健康寿命を延ばすことは十分に可能です。
本記事では、脳萎縮の原因・症状・MRI検査・改善法を医師監修でわかりやすく解説します。
脳萎縮の初期サインと症状
脳萎縮の初期には、非常に微妙で「年のせいかな」と見過ごされがちな変化が現れます。特に注意すべきは、加齢による自然な「生理的健忘」(年齢のせいで物事の一部が思い出せないこと)との決定的な違いです。
病的な初期サイン:体験が「すっぽり抜ける」ことの危険性
| 分類 | 病的なサイン(専門医が注目) | 生理的健忘(加齢による自然な変化) |
|---|---|---|
| 記憶 | 体験全体(例:昨日誰と会ったか、朝食を食べたか)を丸ごと忘れる | 詳細の一部(例:朝食の献立、友人の名前)が思い出せない |
| 反復 | 同じ話を何度も繰り返し、指摘されても自覚がない | 話をしようとして言葉に詰まるが、ヒントがあれば思い出せる |
| 感情・意欲 | 以前は活動的だった人が無気力になる、あるいは怒りっぽくなる | 趣味や関心は維持できている |

このような症状は、単なる年齢のせいではなく脳萎縮の初期症状である可能性があります。
不安な方は「脳萎縮 チェック」のリストを活用し、早期の専門医相談をお勧めします。
脳萎縮初期症状セルフチェックリスト
チェックリスト
- 体験全体を丸ごと忘れる
- 同じ話や質問を繰り返してしまう
- 約束や最近の出来事が思い出せない
- 段取りや計画が立てにくくなった/判断に時間がかかる
- 以前より怒りっぽい・無関心など感情の変化が増えた
- 言葉が出てこない、相手の言葉の意味が入ってきにくい
「脳の萎縮」は回復するの?
萎縮してしまった神経細胞が完全に再生することは難しいですが、脳には可塑性(かそせい:柔軟に変化し、ネットワークを再構築する能力)があります。
生活習慣を改善することで、残された神経細胞やネットワークを強化し、機能改善や進行遅延、脳萎縮を止めることを目指すことは十分に可能です。
脳萎縮があるとどうなる?進行による生活への影響と重大なリスク
脳萎縮は、進行すると日常生活に大きな影響を及ぼします。
特に萎縮が起こる部位によって、現れる症状やリスクが異なります。
| 萎縮部位 | 主な機能障害 | 脳萎縮 あるとどうなる(具体的な影響) |
|---|---|---|
| 海馬 | 記憶、学習機能 | 最近の出来事を覚えられない(記憶障害)、同じ話を繰り返す |
| 前頭葉 | 実行機能、感情制御 | 計画を立てられない、集中力が続かない、怒りっぽくなる、無関心になる |
| 側頭葉 | 言語理解、聴覚 | 言葉が出てこない(失語)、相手の言葉の意味を理解しにくい |
脳萎縮は、認知症(アルツハイマー型など)の発症リスクを高めるだけでなく、集中力や判断力の低下から、仕事や車の運転、家事など日常生活全般に支障をきたす可能性が高まります。
脳萎縮 主な原因と進行のメカニズム:ストレスや加齢の影響
脳萎縮は単なる加齢現象ではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って進行します。特に現代人が抱えるストレスや生活習慣病が、その原因として深く関わっています。
1. 年齢と共に高まる病的な変化:海馬へのダメージ
年齢とともに脳の体積は自然に減少しますが、アルツハイマー病などの病的な要因が加わると、記憶の中枢である海馬(かいば)などで萎縮が加速します。
- 病的なメカニズム
- アルツハイマー型では、アミロイド $\beta$ という異常なたんぱく質(脳の神経細胞にとっての"ゴミ")が脳内に蓄積し、これが神経細胞に毒性を示して萎縮を引き起こします。
2. 慢性ストレスと睡眠不足が脳を傷つける

ストレスの影響
慢性的なストレスは、コルチゾール(ストレスホルモン)を過剰に分泌させます。コルチゾールは、記憶の中枢である海馬の神経細胞を直接傷害し、萎縮を加速させます。これは脳萎縮の原因として、特に働き盛りの世代で深刻な問題です。
睡眠不足の影響
質の良い睡眠中に働くグリンパティック・システム(脳内の老廃物排出システム)が、アミロイドβなどの有害物質を脳から洗い流します。睡眠不足は、このシステムの機能低下を招き、脳萎縮のリスクを高めます。
3. 生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)
高血圧や糖尿病は脳血流を悪化させ、血管性脳萎縮を引き起こします。
MRIで白質病変や微小梗塞が見られる場合は、血管の老化が進行しているサインです。
4. アルコール・喫煙・運動不足
アルコール多飲や喫煙は酸化ストレスを高め、神経細胞を傷つけます。
また、運動不足はBDNF(脳由来神経栄養因子)の減少につながり、神経再生や可塑性を阻害します。
5. 遺伝・脳血管障害・慢性炎症
家族歴に認知症やアルツハイマー病がある場合、遺伝的リスクも上昇します。
さらに、慢性炎症や自己免疫性疾患、繰り返す脳血管障害も萎縮を進行させる要因となります。
脳萎縮のMRI診断:専門医はどこを見て脳萎縮を評価するのか
MRI検査は、脳の萎縮状態を客観的に確認するために不可欠です。
専門医は「脳が縮んでいる」という大まかな情報だけでなく、以下の点を複合的に観察し、萎縮のタイプと原因を推測します。
- 萎縮の場所とパターンから病態を特定する視点
- 海馬周辺: アルツハイマー型認知症の初期に強く現れる萎縮パターン。
- 脳全体・脳室の拡大: 加齢やアルコール多飲、または血管性障害による広範囲な萎縮。脳室の拡大も確認される。
- 脳溝の広がり: 脳の溝(脳溝)が深く広がっているかを確認。
- 血管の病気(微小梗塞)の有無をチェックする理由
- 微小梗塞・白質病変: MRIで脳の小さな血管が詰まった痕跡(微小梗塞)や、神経線維が傷ついた部分(白質病変)が多い場合、血管性脳萎縮が強く疑われます。高血圧や糖尿病の管理が非常に重要です。

海馬に萎縮はみられない

海馬に萎縮が見られる

脳溝は深く広がっている
さらに専門的な検査について
当院では、海馬の萎縮度を客観的に数値化するVSRAD解析を脳ドックに組み込んでいます。MRI画像からわかる認知症のサインについて詳しくは、【脳ドック×VSRAD解析】MRIでわかる認知症のサイン|50歳からの備えにもご覧ください。
脳萎縮を止めるには:予防と改善策|具体的な生活習慣
脳萎縮を止めるには、自己努力と医学的管理の両輪が重要です。特に以下の具体的な生活習慣は、脳機能の改善に直結します。
1. 運動:BDNF(脳を育てる物質)を増やし神経を活性化
定期的な有酸素運動は、脳内でBDNF(脳由来神経栄養因子:脳を育てる物質)を増加させ、神経新生を促します。
週に3回以上、30分程度のウォーキングや軽いジョギングなどを継続しましょう。
2. 食事:MIND食で血管と神経を守る
MIND食(地中海食+高血圧予防食)は、認知機能維持に効果があることが報告されています。
青魚(DHA/EPA)、緑黄色野菜、オリーブオイルなど、抗酸化作用のある食材を積極的に摂取しましょう。
3. 進行抑制の鍵:血圧・血糖値管理と社会活動
高血圧や糖尿病などの生活習慣病をコントロールすることは、血管性脳萎縮の進行抑制に不可欠です。
また、人との交流や新しい学習活動は脳を使い続けることにつながり、脳萎縮改善や認知症予防に効果的です。

よくある質問(Q&A)
脳萎縮を止めるには、どんな治療が必要ですか?
脳萎縮の進行を完全に止める決定的な治療薬は、現時点では開発途上にあります。しかし、生活習慣病の徹底的な管理(血圧、血糖値)、定期的な有酸素運動、MIND食などの食事療法を組み合わせることで、進行を遅らせたり、認知機能の改善を目指すことは可能です。これが、現時点で最も科学的根拠のある脳萎縮を止めるための対策です。
自分でできる脳萎縮 チェックリストはありますか?
当記事の初期症状の表にあるように、「体験全体を丸ごと忘れる」「同じ話を何度も繰り返す」といった病的なサインがないか、ご家族や周囲の方の協力を得て確認することが重要です。また、当クリニックでは、より専門的なMRI検査や認知機能テストを組み合わせた精密な脳萎縮 チェックをお勧めしています。MRIとAI(MVISION)で脳の未来を見える化し、早期対策も、早期のリスク評価に役立ちます。
脳萎縮があるとどうなりますか?必ず認知症になりますか?
脳萎縮は認知症のリスクを高めますが、必ずしも認知症になるわけではありません。脳全体が萎縮している場合でも、認知機能が保たれている方も多くいます。重要なのは、萎縮の程度や部位(特に海馬)、そして血管性病変(微小梗塞など)の有無を専門医のMRI検査で客観的に評価することです。
40代や50代の若い世代でも脳萎縮が進行することはありますか?
はい。ストレスや睡眠不足、過度な飲酒などによって、40代や50代、それよりも若年層でも脳萎縮が進行することがあります。
過度なストレスは放置せず、早期に適切な対処(休息、運動など)を行うことが重要です。
不安を感じたら専門医への相談が最も確実な一歩
脳萎縮は加齢やストレス、血管障害で進行しますが、予防・改善は可能です。
- 初期症状は、体験全体を忘れる記憶障害や感情の変化に現れます。
- MRI検査で萎縮の部位や血管病変を確認することが大切です。
- 運動・食事・生活習慣病コントロールで進行を遅らせられます。
「まだ大丈夫」と見過ごさず、不安を感じたら専門医に相談し、客観的評価を受けることが将来の安心と健康寿命の延長につながります。当院のMRIとAIを用いた早期対策については、もしかして認知症?脳萎縮が気になる方へ|MRIとAI(MVISION)で脳の未来を見える化し、早期対策で詳しくご紹介しています。
けやき脳神経リハビリクリニックは、地域の皆さまの「脳と血管の健康」を守る身近な専門クリニックです。
脳萎縮の早期発見・改善や物忘れ対策の相談まで、安心してご利用ください。
監修者情報
監修:林 祥史 院長
私立灘高校卒/東京大学医学部医学科卒
けやき脳神経リハビリクリニック 院長
資格・所属学会
【資格】 日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医、日本脳血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医
【所属学会】 日本脳神経外科学会、日本脳血管内治療学会、日本脳卒中学会、日本リハビリテーション医学会、日本頭痛学会、日本めまい平衡医学会、American Academy of Family Physicians、Cambodian Medical Association