未破裂脳動脈瘤が見つかったら幸せ?不幸せ?
「脳ドックはやる必要がない」という話を聞くことがあります。無駄に検査をして、何か見つかってしまったとしても治療には合併症が伴うので、誰もハッピーではないのではないか、という論調です。
私は病気になる前に検査をし、異常がみつかれば発症を防いで健康に暮らすという「予防医療」の肯定派ですので、ほかの健診と同じように、「体に有害ではない検査であれば」、適切な頻度で検査を実施するのは賛成です。その中でも、「脳ドック」のメインである「脳MRI・MRA検査」は、CTのように放射線を使わないので体に害はありませんし、脳や脳血管の状態を細かく知ることができるので非常に有益な検査だと思っています。
脳の病気を疑った場合や脳ドックで脳MRI・MRAを撮像した場合、それなりの頻度で見かけるのは「未破裂脳動脈瘤」です。当院やこれまでの私の経験でも、3mm以下のごく小さな動脈瘤も含めると約5%の患者さんで動脈瘤が見つかっています。これはもし破裂してしまうとくも膜下出血になるので怖いといえば怖いのですが、MRIでくも膜下出血の見え方(脳の表面に少しでも血液の信号があればくも膜下出血を疑います)がなければ、現時点では「未破裂」という診断になります。この状態では何も症状は来さないのですが、将来的に「くも膜下出血」になってしまうのではないか?と心配してしまう方もおられます。
未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、大きさや部位、形や、患者さん自身のリスクを評価したうえで、どれぐらいの破裂率なのかというのを調べます。日本で行われたUCAS JAPANという研究にて、日本人の未破裂脳動脈瘤の破裂リスクが詳しくわかるのですが、7mm未満で形がいびつではない、また部位も破裂しやすい部位ではなければ、すぐに手術が必要というわけではないので心配しすぎる必要はありません。手術するとなると、手術を行う場合のリスクも考慮する必要があり、破裂の危険性が低い場合は「経過観察」をするのが最も適切な方法となります。
では、心配が増えるだけなのでMRIを取らなければよかった、未破裂脳動脈瘤なんて見つからなかった方がよかったのか?というと、私はそうではないと思っております。むしろ逆で、「未破裂脳動脈瘤」の段階で見つかったので、適切にフォローをさせていただき、万が一動脈瘤が大きくなってきたら予防的な治療をしましょう、というお話をさせていただいており、皆さん納得して帰っていかれます。過剰に心配せず、適切な頻度でフォローをしていくこと、またこれ以上大きくならないようにリスクを管理することが非常に重要となります。つまり、「未破裂脳動脈瘤が見つかったら不幸せ」に感じるのは、主治医の先生からきちんと説明を受けていない場合で、きちんと説明を受けていれば前向きに考えられるのではないか、と思います。
なお、リスクについては「高血圧」と「喫煙」を避けることです。血圧がもともと高くなく、喫煙をしていないということであれば何も気にせず過ごしていただいて大丈夫です。一方で高血圧があるけれどもギリギリ様子を見ていた方は投薬を開始することを勧めています。また喫煙中の方は、これを機に禁煙していただくよう、お願いしています。
上記より、もしMRIを取らず、脳動脈瘤が見つかっていなかった場合は、突然くも膜下出血を来してしまう可能性が考えられますので、それを防ぐという意味でもやはりMRIを取る価値はあるのではないでしょうか。
ちなみに当院では脳ドックに限らず、脳MRIを取る時は必ず脳MRA、頸部MRAをセットで一緒に取っております。同じお値段で、ほぼ同じ時間で撮像できるのでお勧めです。