MRIの原理をやまびこで例えると?不安が和らぐ仕組みの話
皆さんはMRI検査を受けたことがありますか?あの筒状の機械の中に入り、ゴトンゴトンと大きな音を立てながら撮影されるMRI検査。一体どんな仕組みで私たちの体の様子を映し出しているのか、不思議に思ったことはありませんか?
今回は、そんなMRI検査の仕組みを、皆様にも分かりやすくご説明します。
MRI検査の仕組みを「やまびこ」で例えると?
MRIは、体に向かって「おーい!」と呼びかけ、その返事(やまびこ)を聞き取ることで体の内部を映し出す検査です。体の中が正常な状態か、それとも異常があるのかで、返ってくるやまびこの響きが違います。
1. 正常な山:きれいに響くやまびこ
正常な組織は、まるで整った美しい山のようです。「おーい!」と呼びかけると、山が「おーーい!」としっかりと反響を返してくれます。
この反響は澄んでいて強く、MRI装置にもはっきりと伝わるのが特徴です。これは、正常な組織内の水分子たちがきちんと揃って動き、協調性をもって反応するからです。
2. 異常な山:響かない、濁るやまびこ
腫瘍や病変部では、山がデコボコで形が崩れているような状態です。「おーい!」と呼びかけても、「お…い」「……」と弱々しく、曖昧なやまびこしか返ってきません。
こうした異常な組織では、水分子の動きがバラバラだったり、揃わなかったりするため、反応も弱く濁ってしまいます。MRIは、このやまびこの違いを聞き分け、画像として表現しているのです。
「ホールのステージ」で例えるMRIの仕組み
では、話をステージに置き換えてみましょう
私がステージの上に立ち、ホールいっぱいの聴衆(観客)に話しかけている場面を想像してください。このホール全体を「脳」と考え、観客一人ひとりを「細胞」に置き換えてみます。
1. 正常な脳:全員がこちらを向いて声を揃えて返す
正常な脳では、ホールの中の1000人の聴衆全員が、ステージ上の私の方をしっかりと向き、話に集中しています。私が「おーい!」と声をかけると、全員が一斉にこちらを向き、「おーーい!」と声を揃えて返してくれます。
その声は大きく、まとまりがあり、ステージにいる私にもはっきり聞こえます。これが正常な組織の状態です。みんなが揃っているから、返事もしっかり響いて届きます。
2. 病変の脳:バラバラに好き勝手な方向を向いている
一方、病変のある脳を想像してみましょう。この場合、ホールの中の聴衆は好き勝手な方向を向いています。
ある人は横を向き、別の人は後ろを向き、スマホをいじっている人もいれば、寝ている人もいる状態です。私が「おーい!」と呼びかけても、全員が揃って返事をしてくれません。
聞こえるのは、バラバラな声の断片、「おーい」「……お…」「い……」といった不規則な返事だけです。ステージの上にいる私にとって、この反応はまとまりがなく、聞き取りづらいものになります。
MRIは、この「聴衆の反応」を拾い上げる装置
正常な脳(全員がこちらを向いて返事をする) → 明るく鮮明な画像
病変の脳(好き勝手な方向を向きバラバラな返事) → 暗く濁った画像
MRI装置は、私の「おーい!」という呼びかけに対する聴衆の反応(やまびこ)を敏感に聞き取り、その違いを画像に変換します。正常な場合は強く揃った反響が返り、病変がある場合は弱くバラバラな反響になるため、そこから病気の部分を見つけることができるのです。
MRI検査の時間が長い理由
なぜMRI検査に時間がかかるのか?
MRI検査は、体全体に「おーい!」と一斉に呼びかけているわけではありません。それぞれの場所(細胞や組織)がどのように反応するかを、細かく住所分けしながら調べていくため、時間がかかるのです。
住所分けをする必要がある理由
たとえば、先ほどのホールの例に戻ってみましょう。1000人の聴衆がいる大ホールで、ステージ上の私は「おーい!」と声をかけています。ところが、2列目だけがバラバラに好き勝手している場合を想像してください。
もしホール全体に一度だけ「おーい!」と声をかけたとしても、どの列がきちんと反応し、どの列がバラバラだったのかを判断するのは難しいですよね。そこで、順番に列ごとに確認していく必要があります。
1列ずつ呼びかける作業
まず、1列目に向かって「1列目の方、いきますよ! おーい!」と声をかけます。
次に、2列目に向かって「次は2列目の方、いきますよ! おーい!」と呼びかけます。
さらに、3列目、4列目……と、ホールの隅々まで順番に呼びかけていきます。
やまびこを繰り返して確認する
各列の返事を聞きながら、「どの列が揃って返事をしてくれるか」「どの列がバラバラなのか」を少しずつ判断していくわけです。前から順番に確認し、端から何番目の列なのかの確認をし…「一番右端の列いきますよ!」「次の列いきますよ!」・・・・・・・
こうした作業を、ホール全体の聴衆に対して繰り返し行う必要があるため、時間がかかるのです。MRI装置も、体の中を隅々までスキャンして、それぞれの部分がどのような「やまびこ」を返すかを丁寧に確認しています。こうすることで、「前から何列目の、右から何番目、ここが元気がない」と判断していくわけです。
繰り返す理由:より正確な画像を得るため
さらに、1回だけやまびこを聞いて終わるわけではありません。同じ列に何度も「おーい!」と呼びかけ、返事を確認する必要があります。
なぜなら、より正確に綺麗に聞き分けるために同じ場所に複数回声をかけ、データを集めていきます。
だからMRI検査は時間がかかる
どこの部分が正常か、どこが異常かを細かく住所分けする必要がある。
1回の呼びかけだけでは正確な判断が難しいため、何度も繰り返す必要がある。
こうして体の隅々まで、正常か異常かを一つ一つ丁寧に確認していくのが、MRI検査が長時間かかる理由です。
MRI検査中の「ドドドドド」という音の正体
MRIの検査中に聞こえる「ゴーッ」「トントン」という音は、まさにこの「住所分け」をしている作業の証拠です。「1列目、いきますよ!」「次は2列目!」と呼びかけている音だと思えば、検査の仕組みが少し想像しやすくなるのではないでしょうか。
MRI検査中に聞こえる「ドドドド」という音の正体
さて、MRI検査中に聞こえる「ドドドドド」「ガンガン」という独特の大きな音、気になったことはありませんか?実はこれ、私(ステージ上のスピーカー)が超高速で「おーい!」と呼びかけている音だと考えてみてください。
ゆっくりやると時間がかかりすぎる
先ほど説明したように、ホール内の各列に順番に「おーい!」と声をかけて、やまびこを確認しているわけですが、もしこれをゆっくりやっていたら……
たとえば、1列目に「おーい!」、次に2列目に「おーい!」、3列目に「おーい!」とやっていたら、1000人の聴衆全員を確認するのに、ものすごく時間がかかってしまいます。
テンポを上げる!
そこで、私はテンポをぐんぐん上げていきます。
最初は「おーい!」「おーい!」と一列ずつ順番に呼びかけていたのが、
だんだん速くなって「おーいおーいおーいおーい!」と立て続けに呼びかけるようになります。
さらにテンポが速くなると、「おーおーおーおーおーーいーー!」と、声がつながったように聞こえてきます。
このスピードがどんどん上がると、最終的には「ドドドドド」「ガンガンガン」といった音になり、まるで機械が動いているような音に聞こえるわけです。
音が大きく聞こえる理由
MRI装置は、ステージで声を出している私を何倍にも大きくしたイメージです。声(電波)を超高速で何度も何度も出しているため、ホール全体に反響する音が大きく、重なり合って「ドドドドド」となるのです。
補足】本当の音の仕組み
MRIの音は、装置の中にある「コイル」が高速で振動して歪むことによって発生しているものです。しかし、一般の方にわかりやすく説明するとしたら、これは「私が超高速でおーい!と呼びかけている音」とイメージすると納得しやすいかもしれません。MRIの大きな音の謎については、こちらで解説しています
MRI検査でわかること
MRIは、脳や脊髄、臓器、関節など、体の中の様々な部位を詳しく調べることができます。特に以下のような病気の早期発見に役立ちます。
- 脳梗塞や脳腫瘍
- 椎間板ヘルニア
- ガンや炎症性疾患
- 内臓や関節の異常
異常を早期に見つけるため、定期検査や不調を感じた際にはぜひMRI検査を受けてみてください。
MRI検査に安心して臨もう!
MRI検査中の音が大きいのは、住所分けのために「おーい!」を超高速で繰り返している音だと考えると、「ああ、今も丁寧に体の中を調べてくれているんだな」と少し安心できるかもしれませんね。