頭痛診療における脳画像検査の適応とMRIの優位性

~安全で的確な診断のために知っておきたいこと~

はじめに
頭痛は日常診療で最も頻繁に遭遇する症状の一つです。多くの場合、原因は一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛など)であり、重篤な基礎疾患が隠れていることは稀です。しかし、頭痛の中には生命や神経機能に重大な影響を及ぼす疾患が潜んでいるケースも存在します。したがって、頭痛診療を行う際には、適切なタイミングで脳画像検査を行い、重大な疾患を見逃さないことが重要です。
脳画像検査が推奨される主な場面
頭痛患者全員に脳画像検査を施行する必要はありません。むしろ、過剰な検査は医療費の増大や不要な不安、被ばくリスクを生じる可能性があります。脳画像検査が推奨される主な場面は以下の通りです。
1. 二次性頭痛が疑われる場合
以下のような所見や症状がある場合、頭痛の原因として脳出血、脳腫瘍、血管障害、感染症などの二次性疾患の可能性を考慮し、脳画像検査が推奨されます。
- 突然発症し、これまで経験したことがないほど強い頭痛(雷鳴頭痛):くも膜下出血などの脳血管障害を疑う場合
- 発熱、項部硬直、意識障害を伴う頭痛:髄膜炎や脳炎など感染症の可能性
- 新たに発症した神経症状を伴う頭痛:麻痺、言語障害、視野障害、てんかん発作など
- がん患者や免疫抑制状態の患者で新規頭痛が出現した場合
- 頭部外傷後に出現または増悪した頭痛
- 50歳以上で新たに発症した頭痛:側頭動脈炎や腫瘍性病変などのリスク増加
- 頭痛の性状や頻度が急激に変化した場合
- 既存の一次性頭痛とは異なる特徴を持つ頭痛
2. 慢性頭痛の経過中に異常が出現した時
長年持続している片頭痛や緊張型頭痛であっても、従来と異なる性状や重篤な症状が新たに加わった場合は、慎重な評価と脳画像検査が必要です。
3. 精査を要する頭痛
診察や問診で診断がつかず、二次性頭痛の除外が望ましいと判断される場合も、画像検査が考慮されます。
脳画像検査でMRIがCTよりも優れている理由
頭痛診療において、脳画像検査として最もよく用いられるのがCT(コンピュータ断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像法)です。どちらを選択すべきかは、臨床状況や疑われる疾患によって異なりますが、以下の理由から多くの場合でMRIがCTよりも優位とされています。

1. 解像度と病変の描出能の違い
MRIはCTに比べて軟部組織のコントラスト分解能が高く、脳実質の微細な変化や腫瘍、炎症、脱髄疾患、脳梗塞初期などをより明瞭に描出できます。特に、小さな脳腫瘍や脳幹部・小脳などの深部構造の評価に優れています。
2. 放射線被ばくがない
MRIは磁場と電波を利用して画像を取得するため、X線を使用するCTとは異なり放射線被ばくがありません。これにより、小児や妊婦、繰り返し検査が必要な患者にとって安心して施行可能です。
3. 造影剤なしで脳血管評価が可能
MRIでは、MRA(磁気共鳴血管撮影)やMRV(磁気共鳴静脈撮影)などの特殊な撮像法を用いることで、造影剤を使わずに脳動脈や静脈の評価が可能です。これにより、動脈瘤や動静脈奇形、静脈洞血栓症など頭痛の原因となる血管病変の診断にも有用です。例えば、「椎骨動脈解離」が原因で頭痛が起きた場合、CTでは異常を見つけられませんが、MRI(MRA)では異常を見つけることができます。椎骨動脈解離の見逃しは脳梗塞やくも膜下出血など重篤な合併症につながる恐れがあるため、早期にMRI検査を行うことが肝心です。
(「椎骨動脈解離」についてはこちら)
4. 頭蓋内感染・炎症の診断
髄膜炎や脳膿瘍、脳炎などの感染症や炎症性疾患においても、MRIは病変の広がりや性状をより正確に評価できます。特に造影MRIは、病変の活動性や血管透過性の増加を反映しやすく、治療方針決定に役立ちます。
5. 頭蓋底や後頭蓋窩・脳神経の観察
CTでは骨の影響で見落とされやすい頭蓋底や小脳、脳幹、脳神経の評価にもMRIは有用です。これらの部位は頭痛を引き起こす重要な病変の好発部位でもあるため、精密な観察が求められます。
6. 時間的制約と初期対応
一方で、くも膜下出血などの急性期の出血性疾患や重篤な外傷、緊急を要する場合には、短時間で施行可能なCTの方が初期診断に適していることもあります。しかし、安定した状態でより詳しい評価が必要な場合はMRIの実施が推奨されます。
つまり、救急で病院に運ばれてきた場合は、まず頭部CTを撮影し、重篤な病気・緊急を要する病気がないか確認することは望ましいですが、もしMRI室が空いていて、状態的にもMRIを実施可能な状況であれば、MRI検査の実施の方が望ましいと言えます。
まとめ
頭痛診療における脳画像検査は、すべての患者に行うものではなく、二次性頭痛が疑われる場合や新規異常症状が出現した際に施行することが推奨されます。脳画像を撮る際には、検査目的や疑われる疾患に応じてMRIがCTよりも優れている点が多々あり、より高精度な診断や安全性の観点からもMRIが第一選択となることが多いです。ただし、緊急時や一部の状況ではCTが有用であることも認識し、患者ごとに最適な検査を選択する姿勢が重要です。