マッサージ後の頭痛、もしかすると「椎骨動脈解離」かも?
皆さんこんにちは。けやき脳神経リハビリクリニック院長の林です。開院してはや2ヶ月ですが、頭痛で悩んでいる患者さんにも多くお越しいただいております。
頭痛の原因の多くは「一次性頭痛」、つまり、「他に何も無いけど頭痛が起きている」という状態で、片頭痛や筋緊張性頭痛、群発頭痛などがこれに当たります。一方、「なにか病気があって、その結果頭痛が起きている」場合を「二次性頭痛」といい、くも膜下出血や脳腫瘍、髄膜炎などの重篤な病気の場合があるので、「二次性頭痛かどうか」をきちんと見抜き、適切な診断をつけるのが非常に重要になってきます。そのためには、どういった場所が痛いのか、どのようなときに痛むのかといった頭痛の性状を詳しく聞いたり、二次性頭痛の原因となる病気だった場合の関連症状(手足の麻痺がないか、とか、頭痛の前に風邪症状がなかったか)を確認することが重要となります。詳しくはこちらのページをご参照ください。
そんな「二次性頭痛」の中でも意外と多いのが「椎骨動脈解離」という病気です。
この病気は椎骨動脈という、頚椎(首の骨)の間を通って頭の方にいき、脳を栄養する血管です。多くの方は左右それぞれ1本ずつあるのですが、生まれ持って片方だけの方もいます。
(写真)青矢印が椎骨動脈。通常左右二本あり、第六頸椎から椎骨の横突孔内に入ることが多い。上行し、第一頸椎の横突孔を出ると内側に湾曲し、硬膜を貫いて頭蓋内に入る。左右の痛骨動脈は頭蓋内で一本に交わり、脳底動脈となる。脳幹部や小脳を栄養する。
このように、骨に囲まれた狭い穴の中を走る血管のため、首を過度にひねったり、強く骨を押したりすることで血管が痛んでしまうことがあります。血管が痛んだ結果、内膜がさけてしまっておこるのが、「椎骨動脈解離」という病気です。
診療でよく見かけるのは、「マッサージの後から首が痛いのが続く」という方です。マッサージ前とは違う痛みが続くというときは、椎骨動脈解離の可能性があります。そのほかにも、急に後ろを振り返った後から痛い、という方や、ゴルフや野球で首をひねったときから痛いという方もいらっしゃいます。「強く首を動かす動作の後から、急に痛みが出現した」という場合は、椎骨動脈解離の可能性を考え、すぐに受診ください。
外傷に伴う椎骨動脈解離のタイプ
2024年に出た論文を一つご紹介いたします。ウクライナの戦争によって負傷した279人の患者さんに対して脳血管撮影を来なったところ、30人(10.8%)に椎骨動脈解離を認めたというものでした。その中で重症度を判別する「Biffl Grade」を用いて分類したところ、GradeⅣの閉塞例が最も多いという結果となりました。
「外傷」で運ばれてきた方の10.8%に椎骨動脈解離があるというのはとても多い確率でして、私も大変驚きましたが、これまできちんと精密検査をされてこなくて見逃されていた可能性はあるのかなと感じました。
椎骨動脈解離のMRI診断
椎骨動脈解離を疑ったとき、当院では脳MRI、MRAを撮像します。椎骨動脈解離の結果、血管の外に出血してくも膜下出血を来してしまったり、血管が閉塞して脳梗塞を伴うことがあるため、脳MRIでそれらの有無を確認いたします。
次に血管の評価となりますが、「MRA」と、「BPAS」という2つの方法で評価を行います。
MRAは一般的な脳血管の撮像方法で、「流れている脳血管」の形を映し出すことができます。
一方、MRIの「BPAS」という撮像方法を行うことで、「外側からみた」脳血管を知ることができます。この二つの画像を比べて、どちらも同じ形に見えていれば、正常な血管と評価します。
一方、もしBPASで血管が見えているのに、MRAでは見えなかったり、異なる形で見えている場合、椎骨動脈解離の可能性があります。
こちらの画像は当院の患者様で椎骨動脈解離を来した方です(ご本人の許可を得て掲載しております。)右の首の後ろから頭にかけての痛みで来院されており、MRIにて、右側の椎骨動脈解離の診断となりました。
この状態で入院できる病院へ転送させていただくこともありますが、幸い、くも膜下出血や脳梗塞などは出現しておらず、自宅にて絶対安静にて経過観察の方針といたしました。この場合、当院では血圧を十分に下げるための降圧薬と、痛み止めかつ炎症を抑えるためにロキソプロフェンを処方しております。
幸いにも、この方は6日目には痛みが消失、一部血管が見えるようになってきまして、20日目には血流の再開を確認いたしました。血流再開によって血栓が飛び、脳梗塞を来してしまう可能性もあるので要注意なのですが、幸いそのようなことがなく経過しております。一般的に発症から2週間は血栓化したり、出血を来す恐れがあるため、十分注意しながら経過をみることがあり、場合によっては手術(脳血管内治療やとラッピング術など)を行う必要があります。
また椎骨動脈解離を来した血管は動脈瘤を来しやすく、痛みの症状がなくなった後も定期的に画像検査が必要で、もし動脈瘤ができて徐々に膨らんできた場合は、コイル塞栓術など脳血管内治療での治療が望ましい場合があります。
以上、椎骨動脈解離についてのお話でした。首のマッサージを行う場合は過度に頸椎を曲げたりひねったりしないようにしましょう。