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脳卒中後の視野障害はリハビリで良くなる?


脳梗塞や脳出血など、脳の病気の後に視野欠損(視野障害)が起こることがあります。ここでは視野欠損についてや、当院で行っているリハビリ治療についてお伝えいたします。

脳の病気による視野欠損とは

脳卒中は発症者の20~57%に視野の障害を引き起こすと言われています。両目の視野の一部や半分が欠ける症状をきたしますが、これらの症状を視野欠損と呼びます。特に、視野を司っている大脳半球である「後頭葉」に損傷をうけると、反対側の半分の視野を欠損します(同名半盲といいます)。また、「視神経」を栄養する動脈の血流が下がることによって視野欠損を来す場合は、片方の目のみ視野欠損を生じます。損傷部位や損傷の大きさにより、半盲の大きさや場所が違います。(脳卒中についてはこちら)

左側半盲の方の見え方。右後頭葉に障害を受けると、両目とも左側半分が見えなくなります。

日常生活での症状

視野欠損をきたすと、正常に活動することが難しくなってしまいます。読書やパソコンを見るときに見えづらさを感じるのはもちろんのこと、日常生活でも自由に動き回ったり、障害物をよけたり、段差を上り下りしたり、車の運転をしたりすることに難しさを感じるようになります。半盲の部分では、何も見えない方もいますが、光が見えたり、「幻視」といって見えないものが見える場合もあります。(日常生活について調べた論文はこちら)

よくある症状は?

  • 同名半盲:両目とも視野の片側が見えなくなります
  • 一過性黒内障:突然片側の視野に黒い点が出現し視野の一部が欠損したり、片側の視野だけ幕が下りたように見えなくなるような発作です。飛蚊症(角膜の傷によるもの)と間違われることもあります。内頚動脈から出る眼動脈の血流低下によってきたすことが多く、一過性虚血性発作(TIA)の時にみられることがあります。そのまま血流が途絶えてしまうと、「網膜中心動脈閉塞症」という病気となり、片側の目が見えなくなります。

半盲と半側空間無視との違い

半側空間無視とは、損傷大脳半球と反対側の刺激に気が付いたり、反応したり、その方向に向いたりすることが障害されている病態です。脳の「非優位半球(主に右側)の頭頂葉」に障害を生じた場合、起きる病態です。

半盲とは、眼球を固定したときの視覚の欠損という視野における障害です。

似ているようで、全く違う症状ですのでリハビリも方法が違ってきます。

視野欠損のリハビリ

脳卒中(脳梗塞や脳出血)や脳の手術などで視野欠損をきたしてしまった場合、主治医の先生から「視野欠損は良くならないから、自分で気を付けるしかない・・」と言われる方はかなり多くいらっしゃると思います。

そして、半盲や同名性視野障害のある場合、見えない方に顔を向け代償するように指導されることが多くあります。しかし、物を見る時は通常、目が動いた後に頭部の運動が起こります。眼球運動による走査と、対象物を見る時の目と頭の協調を考えると、同名性半盲を補完するために頭から先に動かすことは、視覚走査や読みに有害な影響を与える可能性もあるという報告もあります。(論文はこちら)

一方、視野欠損のうち「同名半盲(両目の半分が見えない、もしくは見えにくい)」場合はリハビリ効果についても報告されてきています。それらの研究報告をもとに、当院では積極的に外来リハビリを行っています。

これまでの研究

1981 年に、見えないはずの視野にあるものを言い当てられる同名半盲患者の症例報告がありました。(論文についてはこちら)その患者さんは見えると意識できないものの、見えない視野のところで示した光点 を、当てずっぽうでいいから位置を当てる よう指示すると、正しく指差すことができました。また、棒が縦か横かを当てるテストに も答えることができたそうです。

日本でも、下園ら(2007)が、右後頭葉出血による左下四分盲のある患者さんに、コンピューターを用いて視野 欠損部に反復刺激を行ったところ、視野欠損が改善した 症例を報告しています。(論文についてはこちら)

2008年には自然科学研究機構生理学研究所の 伊佐正教授を研究代表者とする、CREST「脳 の機能発達と学習メカニズムの解明」の研究課題「神経回路網における損傷後の機能 代償機能」のチームが、同名半盲状態のニホンザル に、画面に示された光に目を向けさせるト レーニングを実施した報告もあります。右の図で示すように、トレーニングを繰り返し たところ、右側視野に示した光にも的確に目を向けられるようになってきていました。

2008年には、脳梗塞による同名性半盲の患者に対して反復刺激療法を行なったところ、視野の改善と日常生活動作の改善の効果を得たという報告もあります。(論文についてはこちら)

後頭葉の障害の範囲にもよりますが、脳の回路はネットワーク構造となっているため、少しでも機能が残っていれば刺激を行うことで機能の改善が期待できると考えられています。

リハビリの方法

当院では、以下の点に注意して作業療法士によってリハビリを行っています。

  1. 意識できる範囲の拡大
    視野欠損部への刺激、欠損視野と正常視野の境界領域の系統的刺激
  2. 衝動性眼球運動による視野欠損部へ の視線走査練
    眼球運動の改善
  3. 半盲性難読へのアプローチ
    読字練習
    PC操作練習
  4. 眼球運動練習
    vision training
視野範囲を意識付けるトレーニング
眼球運動トレーニング

まとめ

視野欠損は何とか生活できてしまう方も多くいらっしゃいますが、皆さん、大変な思いをして不便さとともに生活されているお話を聞きます。少しのリハビリで、もっと生活がしやすくなる場合もあります。よくならないから・・・と諦めずに、一緒にリハビリに取り組んでみませんか?当院では、外来の作業療法にて視野欠損のリハビリも行っています。(当院の外来リハビリについてはこちら