「頸動脈プラーク」は無症状でも危険?脳梗塞を防ぐための検査とリスクを徹底解説

動脈硬化とMRI|安心は禁物?「沈黙の殺人者」とは
「毎年受けている健康診断の結果に異常はない。特に自覚症状もないから、自分の血管は健康そのものだ」
そう安心していませんか?
しかし、脳の病気の中には、全く症状がないまま進行してしまうものがあります。その代表が「頸動脈の動脈硬化」です。
動脈硬化は「沈黙の殺人者」と呼ばれ、血管の変化が始まってから症状が現れるまでに、数年から数十年という長い時間がかかります。この「無症状の期間」こそが、病気の進行を食い止め、将来の脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な病気を防ぐための、最も貴重なチャンスなのです。
頸動脈狭窄に「初期症状」はある?
多くの方が「頸動脈の異常に初期症状はあるのか?」と疑問を持たれますが、実は、軽度~中等度の頸動脈狭窄では、自覚症状はほとんどありません。 「言葉がもつれる」「手足がしびれる」といった症状が出てからでは、すでに手術が必要な段階や、後遺症が残る脳梗塞を発症しているケースが少なくありません。
そこで近年、早期発見の切り札として注目されているのが、MRI/MRAを用いた「Black-Blood (BB) 法」という技術です。
なぜ早期発見が重要なのか?MRI/MRAが示す「未来のリスク」
動脈硬化は、血管の変化が始まってから自覚症状が現れるまでに、長い年月を要します。この「無症状の期間」こそが、将来の脳梗塞や心筋梗塞を防ぐための、最も貴重なチャンスです。
「症状が出る前(早期)」に対策するメリット
症状が現れる前の段階であれば、身体への負担を最小限に抑えた対策が可能です。
- 生活習慣の改善: 早期であれば、食事や運動の見直しだけで病気の進行を止められる可能性があります。
- 負担の少ない薬物療法: 比較的軽いお薬で十分な効果が期待でき、重篤な合併症の予防につながります。
- 的確な治療計画: MRI/MRAで血管壁やプラークの「質」を詳細に評価することで、一人ひとりのリスクに基づいた、より効果的な予防プランを立てられます。
「症状が出てから(進行後)」のリスク
一方で、自覚症状が現れた段階では、すでに病状が進行しているケースが少なくありません。
- 高度な狭窄: 血管が著しく細くなっていることが多く、カテーテルや外科的な手術が必要になる場合があります。
- 重大な後遺症: 脳梗塞などを発症した後は、手足の麻痺や言語障害など、日常生活に大きな支障をきたす後遺症が残るリスクが高まります。
MRI/MRAが可能にする「真の早期対策」
MRI/MRAは、単に「病気の有無」を調べるだけの検査ではありません。プラークの「質」を評価し、「その病変が将来どのくらい危険か」を正確に予測します。
これにより、医師はより的確な治療を選択でき、患者さんも「自分の血管のリアルなリスク」を実感することで、前向きな行動変容(生活改善)へと繋げることができるのです

MRI/MRAは、動脈硬化の進行度合いだけでなく、将来のイベント発生リスクをより詳細に予測するための質的な情報を提供することで、予防医療の精度を飛躍的に向上させます。これにより、単に病気を「見つける」だけでなく、その病気が引き起こす可能性のある「未来のリスク」を管理する視点を提供します。
頸動脈MRI/MRAが「脳卒中予防」に不可欠な理由
頸動脈は、心臓から脳に血液を送る太い血管で、首の左右に1本ずつ存在します。動脈硬化が進行してこの血管が細くなると(頸動脈狭窄)、脳への酸素や栄養供給が滞ったり、血栓(血のかたまり)が形成されて脳梗塞を引き起こしたりするリスクが生じます。
MRI/MRAの原理と特徴
MRIは、強力な磁力を体にあて、人間の体の細胞を構成する分子に起こる微妙な変化を利用して、コンピューターで体の断層写真(画像)を作成する検査です 。X線を使用しないため、被ばくの心配がなく、人体への悪影響や痛みなどの苦痛もほとんどありません 。
MRAは、特に血管の全体像を撮影することに優れており、頸部(首)にある主要な血管(頸動脈)の全体像や、動脈の詰まりや狭窄、動脈硬化などを確認するために用いられます 。頸動脈は体の動脈の中でも観察しやすい部位にあり、頸動脈の狭窄は、全身の動脈硬化の進行度合いを推測する手掛かりにもなります。

血管(内頚動脈)が狭窄(細く)しているのがわかる
MRI/MRA検査や採血の結果で動脈硬化の疑いが見つかった場合、さらに詳しい検査として頸動脈エコー検査が勧められることがあります。
これは、MRI/MRAと頸動脈エコー検査が、お互いの得意な情報を補い合う関係にあるからです。
【頸動脈エコー検査についてはこちらをご覧ください:脳梗塞予防の鍵「頸動脈エコー」とは?】
たとえば、MRI/MRAが動脈硬化の「全体像」を捉えるきっかけとなり、それを受けてエコー検査が異常箇所をピンポイントで詳しく調べる、という連携が可能です。
もちろん、その逆のパターンもあります。
エコー検査で異常が見つかった場合: MRI/MRAがその異常について、より詳しく評価する役割を担います。特にMRAは、血管全体の様子や狭窄の程度、血流の状態を立体的に捉えることに優れています。
MRI/MRAが提供する情報:
エコー検査の情報に加え、「血管全体の構造」「血流の異常」、そしてプラークの「質」といった、より詳細な情報を得ることができます。
これにより、単に「動脈硬化があるか」だけでなく、「その動脈硬化がどのくらい危険か」を正確に判断できるようになり、診断とリスク評価の精度が飛躍的に高まります。
頸動脈MRI/MRAでわかる3つの重要ポイント
頸動脈MRI/MRA検査では、血管の状態を多角的に評価し、将来の脳梗塞や心筋梗塞のリスクを詳細に把握することが可能です。
1.血管の全体像と血流の状態(MRA)
MRAは、脳に血液を送る頸動脈の全体像を立体的に捉えることができるため、血管のどこに狭窄があるか、またその程度を明確に確認できます 。血流の状態も観察でき、血液がスムーズに流れているか、どこかで詰まっていないか、血流の乱れがないかなどを評価します 。
これにより、脳梗塞の原因(またはリスク)が頸動脈のどの部分にあるのか、また複数の病変がある場合の全体的な評価が可能になります。
2.血管壁の変化とプラークの有無・大きさ(MRI)
MRIは、血管の壁の厚さや、コレステロールなどの脂肪がたまってできた塊である「プラーク」の有無、その大きさ、数などを詳細に確認できます 。
頸動脈エコーが「量的な変化」(血管壁の厚さ)を捉えるのに対し、MRIは「質的な変化」(プラークの性状)に強みがあります。これらは互いに補完し合う関係にあり、MRIは血管壁の構造的変化をより詳細に可視化することで、動脈硬化の進行度合いを総合的に評価します。
3.プラークの「質」の評価:Black-Blood (BB) 法の威力
動脈硬化による脳梗塞発症のリスク評価において、血管の狭窄率だけでなく、血管壁にできたプラークの「質」(性状)が極めて重要であることが近年明らかになっています 。
Black-Blood (BB) 法とは
血流の信号を抑え、血管壁やプラーク自体を鮮明に映し出すMRIの特殊な撮影方法です 。これにより、プラークの内部構造や成分を詳しく、正確に評価できるため、将来の脳梗塞リスクをより詳細に予測することが可能になります 。
なぜ「質」が重要なのか
プラークには、破れにくい「安定プラーク」と、破れて血栓を飛ばしやすく脳梗塞の直接的な原因となる「不安定プラーク(破れやすいプラーク)」があります 。
不安定プラークの評価
BB法では、プラーク内の出血、大きな脂質の塊(粥腫)といった、不安定プラークの特徴を識別できます 。例えば、プラーク内出血はMRI画像で明るく(高信号)映ることがあります 。破れやすいため、脳梗塞発症のリスクが高いと判断されます 。

MRA画像において血管は丸く保たれている(➡)。また、BB法においても血管内腔が綺麗に描出されている。(➡)

MRAでは血管の狭窄を認め、血管径も小さくなっている(➡)。BB法では血管内腔にプラークを半円状に認める(➡)。

MRA画像で血管が細くなっている(➡)に部分にBB法ではプラークが存在していることがわかる。
プラークの質的評価は、治療法の選択や適応の決定に非常に有用な情報を提供します 。
特に重要なのは、「頸動脈の狭窄が軽度であっても、プラークが不安定であれば脳梗塞のリスクが高い」という点です 。BB法は、従来の診断では見過ごされがちだった「隠れたリスク」を可視化します。これにより、高リスク患者を特定し、より早期の介入を促すことが可能になります。
Black-Blood法によるプラーク性状の評価
| プラークの種類 | 特徴 | MRI画像での見え方 | リスク |
|---|---|---|---|
| 不安定プラーク | 柔らかい、被膜が薄い、大きな脂質の塊やプラーク内出血を含む、破れやすい | 明るく(高信号)映ることが多い | 脳梗塞発症リスクが非常に高い |
| 安定プラーク | 硬い、線維や石灰化を多く含む、破れにくい | 暗く(低信号)映ることが多い | 脳梗塞発症リスクが低い |
頸動脈エコーとMRI/MRAの比較表
| 項目 | 頸動脈エコー | 頸動脈MRA | 頸動脈MRI (特にBB法) |
|---|---|---|---|
| 検査方法 | 超音波 | 磁力 | 磁力 |
| 主な評価項目 | 血管壁の厚み(IMT)、プラークの有無・大きさ、血流速度 | 血管全体の構造、狭窄・閉塞の有無、血流の全体像 | 血管壁の質的評価、プラークの性状(不安定/安定)、プラーク内出血 |
| 得意なこと | 初期スクリーニング、動脈硬化の進行度評価、IMTの定量測定 | 血管の全体像把握、狭窄の評価 | 将来の脳梗塞リスク予測(特にプラークの破れやすさ)、治療方針決定のための質的情報提供 |
| 検査時間 | 10〜15分程度 | 頭部の一連のMRI検査として10分程度 | 追加で撮影し3分ほど |
| 被ばく | なし | なし | なし |
| 主な制約 | なし | 体内金属など | 体内金属など |
【頸動脈エコー検査についてはこちらをご覧ください:脳梗塞予防の鍵「頸動脈エコー」とは?】
頸動脈狭窄|「見えない危険信号」を捉える
頸動脈の狭窄が軽度の場合、多くの方で症状が現れることはほとんどありません。しかし、この無症状の期間にも病気は着実に進行しており、ここに動脈硬化の最大の危険性が潜んでいます。
MRI/MRAは、この「見えない変化」を捉えることに特化しています。特にBlack-Blood法は、頸動脈の狭窄が軽度であっても、プラークが破れやすい不安定な状態にあるかどうかを詳細に評価できるため、症状が出る前の段階で将来のリスクを予測することが可能です 。
これにより、動脈硬化の「沈黙の進行」を単に検出するだけでなく、その「沈黙の危険性」を明らかにし、患者さんが自らの健康を守るための具体的な行動へと繋げる強力な動機付けとなります。
突然症状が現れる怖さ
頸動脈狭窄が高度になったり、不安定なプラークが破れて血栓ができたりすると、突然症状が現れます。脳梗塞の場合、手足の麻痺や言語障害など、日常生活に大きな影響を与える後遺症が残る可能性があります。
だからこそ、「何も症状がない今こそ」受けておくべき検査といえます。MRI/MRAによる早期発見は、将来の重篤な病気を防ぐ最も確実な方法の一つです。
早期発見のメリット:「安心」と「未来」
頸動脈MRI/MRA検査で動脈硬化を早期に、そして詳細に発見できれば、以下のような多大なメリットが得られます。
- 進行を食い止められる
- 不安定プラークの存在や血管壁の変化を早期に把握することで、生活習慣の改善や適切な薬物療法により、これ以上の悪化を防ぐことができます。
- 適切な治療選択
- 軽度の段階であれば、負担の少ない内科的治療で管理できる可能性が高まります。プラークの質的評価は、手術の必要性や適切な薬剤選択の判断に役立ちます 。
- 合併症の予防
- 脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な病気を未然に防ぐための、より的確な予防策を講じることができます。
- 生活の質の維持
- 健康な日常生活を長く続けることができ、将来の不安を軽減します。
頸動脈MRI/MRA検査をおすすめしたい方
以下のような方には、頸動脈MRI/MRA検査による詳細な評価を特におすすめします。
- 40歳以上で、まだ一度も脳ドックを受診したことがない方
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療中または指摘されたことがある方
- タバコを吸っている、または過去に吸っていた方
- ご家族に脳卒中や心臓病の病歴がある方
- 血液検査や健康診断の結果が気になる方
- 頸動脈エコー検査でプラークが認められた方、または血管壁の肥厚を指摘された方
未来の健康を守る、「小さな一歩」
動脈硬化は時間をかけてゆっくりと進行しますが、症状が出た時には既に手遅れになっている場合があります。しかし、頸動脈MRI/MRA検査、特にBlack-Blood法による詳細なプラークの質的評価があれば、この進行を食い止め、脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な合併症を未然に防ぐことができるのです。
その小さな一歩が、将来の大きな安心につながります。気になる症状がなくても、定期的なチェックで健康管理を行い、脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な病気を未然に防いでいただければと思います。
この記事は、一般の方への情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や助言に代わるものではありません。検査や治療については、必ず医師とご相談ください。