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CTとMRIの違いとは?22年の現場経験から語る|第一部:基本知識編  

【画像】CTとMRI

CTとMRI、それぞれどんな特徴があり、どちらを選べばいいのか。22年間現場で検査を続けてきた放射線技師の私が、実際の経験をもとにその違いをお伝えします。

頭の検査で「CTとMRI、どちらを選ぶべきか」という質問をよくいただきます。脳に関する病気の診断にはCT(コンピュータ断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像法)という二つの重要な検査方法があります。どちらを選ぶべきかは症状や発症時間に応じて異なります。大学病院や脳神経外科病院での勤務を経て、現在クリニックで働く中で、この選択は単純ではなく、患者さん一人ひとりの症状や状況に応じた判断が必要だと強く感じています。ここでは、CTとMRIの特徴や使い分けについて、私の経験をもとにお話しします。

目次

1.CT検査の特徴と急性期診断における重要性

CT検査は、頭部外傷や脳出血など急性期の疾患において、非常に重要な役割を果たします。特に、重症の頭部外傷やくも膜下出血が疑われる場合、迅速な診断が求められます。これらの疾患は、早期の対応が命に関わります。

私自身も、三次救急や二次救急の現場で多くの重症患者を診てきましたが、CTの迅速な結果が治療に直結する場面を何度も目の当たりにしてきました。特に、脳内出血や重症頭部外傷を疑う患者においては、CTを早期に実施することで、正確な診断を短時間で得ることができ、治療方針を迅速に決定することが可能です。

救急現場では、患者の状態が非常に不安定であるため、診断結果がすぐに得られるCTは、命を救うための最初のステップとして欠かせません。大学病院や総合病院のような三次救急施設では、まさに命に直結する重症患者を扱っており、CTの速さと正確さが非常に重要な役割を果たします。 このように、CT検査は単に画像を撮影するだけでなく、命を救うための重要な道具となっているのです。

2.CTの仕組みと限界

CT(コンピュータ断層撮影)は、X線を使って体の中を詳しく調べる方法です。体の中のいろいろな部分がX線を吸収する程度が違うことを利用して、体の内部を画像として映し出します。このため、脳のように柔らかい組織も、はっきりと見ることができるのです。

脳の場合、脳の周りは脳脊髄液という液体に囲まれており、脳溝(脳のしわ)や脳室は画像では黒く写ります。この脳脊髄液に血液が混ざると、その部分が白く映ります。これは、血液が脳脊髄液とは異なるX線吸収率を持っているためです。しかし、血液の量や状態(例えば、新しい血液か、時間が経過して変化した血液か)によって、その白さが変わるため、少しだけ出血している場合や、時間が経って血液が薄くなった場合、CTでその異常を見逃してしまうことがあります。

血が少しだけ出ている場合や、出血から時間が経過して血が薄くなると、CTではその濃度変化がはっきり見えないことがあるのです。これが、CT検査の限界の一つです。

つまり、CTは素早く病気を見つけるためにとても便利ですが、すべてを完璧に見ることができるわけではなく、他の検査と組み合わせることで、より正確な診断が可能になるのです。

図解
【画像】正常頭部CT
【画像】CT濃度変化イメージ
【画像】CT血腫量による見え方イメージ

3.MRIの強みを活かした多角的な診断

MRI(磁気共鳴画像)は、脳のさまざまな病気を調べる際に、CTよりもさらに詳しい情報を提供できる非常に優れた検査方法です。特に、「数日前から頭が痛い」といった症状や、「最近よく転ぶ」といった体調の変化を訴える患者さんに対しては、MRIの強力な診断能力がその真価を発揮します。


MRIの最大の強みは、異なる撮影方法を組み合わせて脳の状態を多角的に捉えられるところです。脳の中の細かい変化や、血流の状態、さらには神経の細部まで、非常に詳細に見ることができます。これにより、CTでは見逃されがちな病変や、初期段階の病気を見つけることができるのです。

例えば、MRIには「FLAIR(フレア)法」や「T2*(ティーツースター)強調画像」など、さまざまな種類の画像を撮る方法があります。これらを組み合わせることで、脳の状態をより詳しく理解することができます。さらに、「拡散強調画像(DWI)」という方法を使うことで、脳内の微細な変化を早期に発見することができ、例えば脳梗塞などの初期変化を捉えることが可能です。
このように、MRIは単一の画像で脳全体を診るだけでなく、さまざまな視点から情報を得ることができるため、患者さんの症状に合った診断ができるのです。頭痛や転倒、さらには記憶障害などの症状がある場合には、MRIを使った診断が非常に重要です。

4. DWI(拡散強調画像)

DWIは、急性期(発症から数時間~数日以内の早期段階)の脳梗塞を特定するために最も有用な撮影法です。脳梗塞が発生すると、損傷した部位では水分子の動きが制限されます。この異常をDWIが明確に捉えることで、発症後の早い段階での診断が可能となります。特に急性期の診断において、DWIは不可欠な役割を果たします。

また、めまいやふらつきなどが脳梗塞によるものである可能性がある場合、小脳や脳幹に病変がないかを確認する必要があります。しかし、CTは骨の影響を受けやすく、小脳や脳幹部の描出が苦手です。さらに、CTでは超急性期の脳梗塞の変化をとらえることが難しいため、MRIの重要性がより高まります。

5. FLAIR(フレア)法とT2*(ティーツースター)法

FLAIR(フレア)法

FLAIR法は、水の信号をゼロとする(信号を消す)撮影法です。これにより、脳脊髄液に少量の血液が混ざっている場合でも、その血液の信号を鮮明に描出できます。急性期のくも膜下出血や微細な異常の検出に優れていますが、時間の経過とともに感度が低下するという課題があります。

図説
【画像】MRI信号と濃度
【画像】FLAIR解説
【画像】FLAIR出血時解説

T2*(ティーツースター)法

MRI検査では、出血を早期に発見するためにT2*(T2スター)強調像という特殊な画像がよく使われます。

これは、正常な血球と出血後の血球の違いに着目した撮り方となります。

 正常な血球は磁石にほとんど反応しません。一方で出血後の血球は磁石に強く反応する性質に変わります。

T2*強調像は、磁石に反応する物質を敏感に捉えることができます。出血によって血球が磁石に強く反応するようになると、T2*強調像では出血部位が黒く(低信号)映し出されます。

この技術の大きな特長は、時間が経過しても検出感度が低下しにくい点です。亜急性期や慢性期の古い出血や血腫の評価に非常に有用です。特に、CTやFLAIR法では見逃されがちな異常を捉えることができます。

図解
【画像】T2*原理1
【画像】T2*原理

6. MRA(磁気共鳴血管撮影)

MRAは、脳血管の状態を詳細に評価するためのMRI技術で、血管の構造や血流の異常を視覚化するのに非常に有効です。脳梗塞や脳動脈瘤、動脈解離などの血管性疾患の診断に使用されます。特に、侵襲性がないため、造影剤を使用したCT血管造影に比べて患者への負担が少ないという利点があります。詳細な検査が必要な場合は、MRAを用いて血管の異常をチェックすることができます。


CTとMRIはそれぞれの検査に特徴があり、選択肢の選定には症例に応じた知識が求められます。第二部では、実際の症例を取り上げ、CTとMRIの使い分けについてより深く掘り下げていきます。  → 第二部へ