「MRIとMRAの違いとは?」|造影剤なしで脳動脈瘤や頸動脈を検査する方法
MRI(磁気共鳴画像法)は、脳や頸動脈などの体内を撮影するための医療技術です。特に注目すべきは、造影剤を使わずに血管を検査できる「MRA(磁気共鳴血管撮影)」という方法があることです。
このMRAでは、血管や血流を鮮明に捉える「TOF法(Time of Flight法)」が脳動脈瘤や頸動脈狭窄の診断で広く活用されています。
目次
- MRIとMRA?
- MRAにおけるTOF法の活用
- 脳動脈瘤や頸動脈狭窄の早期発見
- 血流動態の観察
- TOF法の仕組み|避難訓練に例えて解説
- TOF法のメリット
- 造影剤不要で安心
- 非侵襲的で体に優しい
- TOF法の限界
- 遅い血流や細い血管の描出
- MRA画像でわかること
- 医療技術の進化|TOF法がもたらす安心感
- MRAを活用した血管健康のチェック
MRIとMRA?
では、「MRI」と「MRA」の違いは何でしょうか?簡単に説明すると以下の通りです。
MRI:脳や体全体の構造や臓器を詳細に撮影する技術。
MRA:血管に特化した画像を得る技術。
これらの技術は、脳卒中予防や脳動脈瘤・頸動脈狭窄の早期発見に欠かせない技術となっています。
この記事では、脳動脈瘤や頸動脈狭窄といった具体的な疾患に触れながら、TOF法の仕組みを「町内会の避難訓練」に例えてわかりやすく解説します。さらに、TOF法の得意な用途やそのメリット・限界についても触れ、MRIやMRAへの理解を深められる内容に仕上げました。
血管描出技術|TOF法の活用場面
MRAで血管を描出する際に用いられるTOF法は、主に脳血管や頸動脈など、血管を観察する際に効果を発揮します。この技術が特に活用される場面は以下の通りです。
1. 脳卒中や脳動脈瘤の早期発見
MRAを活用することで、脳動脈瘤や血管の詰まりといった脳卒中リスクを迅速に検出できます。
2. 頸動脈狭窄のチェックと予防
動脈硬化による頸動脈の狭窄をMRAで早期発見することが可能です。この検査を通じて、心筋梗塞や脳梗塞の予防につなげます。
3. 血流動態の観察
血流の速さや流れ方を把握することで、治療方針の決定をサポートします。
これらの活用例により、TOF法は健康診断や病気予防に欠かせない技術となっています。
TOF法の仕組み|避難訓練に例える血管描出の流れ
MRIで血管を描き出すTOF法の仕組みを、町内会の避難訓練に例えて簡潔に説明します。
1. 町内の人たち=静止している組織
避難訓練中、町内の人たちは繰り返し放送される「しゃがんでください!」という指示に従ってしゃがみます。これが、MRIで静止している組織(脳)が信号を発しない「飽和状態」に相当します。
※飽和状態とは?
MRIにおいて、動かない組織(脳や筋肉など)からの信号を抑える仕組みのことです。これにより、動いている血液の信号が目立ちやすくなります。
2. 町外から流れ込む人たち=血液
町外から地域に入ってくる人たちは避難訓練指示を知らず、立ったまま歩いてきます。この「立っている状態」が、TOF法で新しい血液が信号を発して目立つ仕組みと同じです。
3. 速く歩く人とゆっくり歩く人=血流の速さ
速く歩く人(速い血流)
町外から入ってきた人たちが勢いよく歩いてくると、訓練の放送を聞いて理解するまでの間、立ったまま歩き続けます。つまり、その存在がすぐに目立ちます。これは、血流が速い部分がMRI画像で鮮明に描出される理由です。
ゆっくり歩く人(遅い血流)
ゆっくり歩いてくる人たちは、町内に入ると地域の放送を少しずつ聞き取るようになります。そして、「自分もしゃがまなきゃいけない?」と放送に影響されます。外部から来た人も最終的にはしゃがんでしまい、他の町民と同化して目立たなくなりますこれは遅い血流が信号を発しなくなる(画像で目立たなくなる)仕組みに似ています。
4. 道が詰まっている=血流が止まっている状態
もし避難訓練中に町外から入る道が通行止めだったら、誰も入れません。同様に、血管が詰まり血流が完全に止まっている部分はMRA画像では描出されなくなります。
「TOF法のメリット|造影剤不要で安全な血管検査」
1. 造影剤不要で安心:腎機能が低下している患者さんや、造影剤アレルギーのある方でも安全に検査が可能です。
2. 非侵襲的で体に優しい:血管の健康を調べる際、針を使ったり造影剤を注入したりする必要がないため、身体的負担がありません。
特に、腎疾患を持つ患者さんや高齢者にとって大きなメリットがあります。
「TOF法の限界|遅い血流や細い血管の描出に注意」
TOF法は、血流が遅い部分や細い血管の描出が難しいことがあります。特に、血流がゆっくりと流れる部位では、避難訓練の例えで説明したように、時間が経つにつれて「町外から来る人(血液)」が飽和状態に近づくことで、鮮明に映らなくなることがあります。
しかし、実際の検査ではこの問題を克服するために、撮影する範囲をブロックごとに分けて撮影する工夫が施されています。これは、各ブロックで新しい血液が流れ込み、飽和信号の影響を受けにくくすることで、鮮明な血管画像を得られるようにする技術です。こうした工夫により、TOF法の限界を補いながら診断精度を高めています。
※TOF法で信号を得るにはしっかりとした流れがあることが前提となります、一方の造影CTでは、血管内に造影剤があるということが前提となるため、撮るタイミングでそこに造影剤があれば(流れが速かろうが遅かろうが)写すことができる。
MRA画像でわかること?
TOF法を用いたMRI画像からは、血管の形や血流の速さ、詰まりの有無がわかります。
血流が速い部分は鮮明に映り、詰まりがある箇所は描出されません。これにより、動脈硬化や血栓などの異常を早期に発見し、適切な診断や治療に役立ちます。
医療技術の進化|TOF法がもたらす安心感
かつては血管の状態を調べる際に侵襲的な検査が必要でした。しかし、MRIやTOF法の登場により、患者さんに負担をかけず血管の状態を確認できるようになりました。造影剤を使わずに安全に血管を描出できる画期的な技術として、医療現場で広く活用されています。
MRAを活用して血管の健康状態を安全にチェック
MRAは、血流の状態を安全かつ鮮明に描き出せる技術です。脳動脈瘤や頸動脈狭窄など血流の異常を確認するだけでなく、救急の現場で迅速に診断を行う際や、日常的な診断でも重要な役割を果たします。また、造影剤を用いない安全な検査であることから、健康診断や脳卒中予防を考えるうえでも、欠かせない技術です。
患者さんの負担を最小限に抑えつつ、多様な場面で血管の健康状態を確認できるMRA。今後も医療の現場でさらに活用が進むことが期待されます。