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食欲の原理を大解剖!食欲ホルモンと「報酬系」の仕組みを知れば、肥満がもっとよく分かる

2026.09.22 ブログ

食欲は「意志」だけで決まるものではありません

「食べ過ぎるのは意志が弱いから。」

そう思われることが少なくありません。

しかし近年の肥満研究では、この考え方は大きく変わってきました。

現在では、食欲は脳・胃・腸・脂肪組織・膵臓がホルモンを介して情報をやり取りすることで調節されていることが分かっています。

さらに、「お腹が空いたから食べる」という仕組みだけでなく、「お腹は空いていないのに食べたくなる」という脳の「報酬系(Reward System)」も重要な役割を担っています。

つまり、

食欲には「身体が必要としている食欲」と「脳が食べたいと感じる食欲」があります。

今回は、この食欲の仕組みをできるだけ分かりやすく解説します。

食欲には大きく2つの側面があります

食欲は非常に複雑ですが、理解しやすくするために、大きく2つの側面に分けて考えてみます。

① 生きるための食欲(恒常性食欲:Homeostatic Appetite)

これは生命を維持するために必要な食欲です。

例えば、

  • 食事をしばらくしていない
  • 血糖が下がってきた
  • エネルギーが不足してきた

このような状態になると、胃や腸、脂肪組織などからホルモンが分泌され、「エネルギーが足りません」という情報が脳へ送られます。

脳はその情報を受け取り、

「お腹が空いた。食べよう。」

と判断します。

これは、人間が生きるために備わった非常に重要な仕組みです。

② 楽しむための食欲(報酬性食欲:Hedonic Appetite)

一方で、こんな経験はありませんか?

夕食を食べたばかりなのに、

  • ケーキを見ると食べたくなる
  • コンビニへ行くと新商品を買ってしまう
  • ポテトの匂いにつられる
  • ストレスがたまると甘いものが欲しくなる

これは必ずしも、

「身体のエネルギーが足りないから」

起こっているわけではありません。

「おいしそう」

「食べたい」

「食べたら気持ちよさそう」

と、脳が食べ物に価値を感じることでも食欲は起こります。

これを、

報酬性食欲(Hedonic Appetite)

と呼びます。


では、この食欲に関係している「食欲ホルモン」についてみてみましょう。

食欲ホルモンとは?

「生きるための食欲」には、身体から脳へ送られるさまざまな信号が関係しています。

代表的なものを見てみましょう。

グレリン|「お腹が空いた」を伝えるホルモン

グレリンは主に胃から分泌されるホルモンです。

空腹時に増加し、

「食べたい」

という信号に関わります。

一般に食前に増え、食後には低下します。


レプチン|身体に蓄えたエネルギーを脳へ伝える

レプチンは主に脂肪細胞から分泌されます。

体内に蓄えられているエネルギーの状態を脳へ伝え、食欲やエネルギー消費の調節に関わります。

肥満ではレプチンの血中濃度が高くても、その作用が十分に伝わりにくくなる、

「レプチン抵抗性」

がみられることがあります。


GLP-1|食後の満腹感などに関わるホルモン

GLP-1は、食事をすると主に腸から分泌されるホルモンです。

GLP-1には、

・満腹感に関わる
・胃から食べ物が排出される速度を遅らせる
・血糖に応じてインスリン分泌を促す

などの働きがあります。

肥満症や糖尿病の治療で使われる薬の中には、このGLP-1の仕組みを利用したものがあります。

例えば、

ウゴービ(セマグルチド)はGLP-1受容体作動薬です。


GIP|GLP-1とともに働くインクレチン

GIPも、食事に反応して腸から分泌されるホルモンです。

GLP-1と同じく、

「インクレチン」

と呼ばれるホルモンの一つです。

血糖に応じたインスリン分泌などに関わり、近年では食欲やエネルギー代謝との関係についても研究されています。

マンジャロ・ゼップバウンドの有効成分であるチルゼパチドは、GIPとGLP-1の両方の受容体に作用します。

→ メディカルダイエットで使う薬の効果とは?

「食べたい」は脳で統合されています

では、胃や腸から送られてきた情報は、どこで判断されるのでしょうか。

重要なのが脳です。

特に視床下部では、

・グレリン
・レプチン
・GLP-1
・インスリン

など、身体から送られてくるさまざまな情報を受け取り、

食欲やエネルギーバランスの調節に関わっています。

2025年のNew England Journal of Medicineの総説でも、空腹や摂食行動は単一のホルモンだけではなく、身体・脳・行動・環境などが複雑に関わる仕組みとして整理されています。

つまり、

「胃が空っぽだから食べる」だけではない

ということです。

生きるために必要な食欲だけが働いているのであれば、必要なエネルギーを摂ったところで食事は終わりそうです。

でも実際には、

「お腹いっぱいだけどデザートは食べたい」

ということがあります。

では、なぜでしょうか。

ここで重要になるのが、

もう一つの食欲である「報酬性食欲」

です。

「お腹は空いていないのに食べたい」はなぜ起こる?

ここで登場するのが、

脳の報酬系

です。

脳には、

「これは気持ちいい」

「またやりたい」

「もう一度欲しい」

と感じることに関係する神経回路があります。

この仕組みには、

ドーパミン

という神経伝達物質が重要な役割を持っています。

例えば、

ケーキを見る

↓

「おいしそう」と感じる

↓

実際に食べる

↓

「おいしかった」という経験をする

↓

次に同じような刺激を見たときに「また食べたい」と感じる

というように、

食べ物の見た目・匂い・味や過去の経験が、「食べたい」という行動につながることがあります。

そのため、

満腹のサインが出ていても、

食べ物に対する「欲しい」という気持ちの方が強くなることがあります。

実はこの仕組みは、

  • アルコール
  • ニコチン
  • ギャンブル
  • SNS

などにも共通しています。

ストレスで甘いものが欲しくなるのはなぜ?


仕事や家庭などでストレスが続いたとき、

「甘いものが欲しい」

「脂っこいものを食べたくなる」

という経験をする人もいます。

ストレス反応には、

コルチゾール

などのホルモンが関係します。

ただし、「ストレス → コルチゾールが増える → 必ず甘いものを食べる」という単純な仕組みではありません。

ストレスによって、

・食欲
・睡眠
・食べ物の選び方
・報酬系
・普段の食習慣

などが複雑に変化し、結果として高カロリーな食品を選びやすくなる場合があります。

糖質や脂質を多く含む食べ物は「おいしい」「また食べたい」という経験につながりやすいため、

ストレス

↓

甘いものなどを食べる

↓

一時的に気分が変わる

↓

また同じ行動を繰り返す

というパターンができることもあります。

これは、

単純に「意志が弱いから」と考えるだけでは説明できません。

→ 肥満はなぜ起こるの?食べ過ぎだけではない肥満の原因

では、マンジャロ、ゼップバウンドはなぜ食欲を抑えるのでしょうか?

これらの薬は食欲ホルモンであるGLP-1、およびGIPの働きを強める作用があります。以前は

「胃の動きを遅くする」ことがメインの役割と考えられていました。

しかし現在では、それだけでは説明できないことが分かっています。

GLP-1受容体は、

  • 視床下部
  • 脳幹
  • 報酬系(中脳辺縁系)

にも存在しています。

近年の研究では、GLP-1受容体作動薬は、空腹感を減らすだけでなく、食べ物に対する「欲しい」という気持ちや報酬価値を低下させる可能性が示されています。

そのため患者さんからは、

「食べ物のことを考える時間が減った」

「コンビニに寄らなくなった」

「甘いものを見ても以前ほど欲しくならない」

という感想がよく聞かれます。

「意志」ではなく「脳の仕組み」を理解することが大切です

肥満は、「食べ過ぎ」だけでは説明できる病気ではありません。

脳・胃・腸・脂肪細胞がホルモンを介して情報をやり取りし、その結果として食欲が生まれます。

さらに、報酬系が「食べたい」という欲求を強めることもあります。

そのため現在では、肥満症は慢性疾患として考えられており、生活習慣の改善に加え、必要に応じて薬によって脳やホルモンの働きを整えることも重要な治療法となっています。

当院では、「薬で無理に食欲を抑える」のではなく、「脳とホルモンの仕組みを整えながら、健康的な生活習慣を身につけること」を目標に、一人ひとりに合わせたメディカルダイエットをご提案しています。

食欲は「空腹」だけでは決まりません

食欲には、

① 身体のエネルギーを保つための食欲

と、

② 食べる楽しさや報酬に関係する食欲

という2つの側面があります。

そして、その背景では、

・グレリン
・レプチン
・GLP-1
・GIP
・PYY
・インスリン

などの信号と、

脳の視床下部や報酬系

が複雑に関わっています。

だからこそ、

「食べ過ぎ=意志が弱い」

とは限りません。

食欲の仕組みを知ることで、

「なぜ自分はこの時間に食べたくなるのか」

「空腹なのか、それとも食べたい気持ちなのか」

と、自分の食行動を少し違った角度から見ることができます。

肥満や体重管理では、食べる量だけではなく、「なぜ食べたくなるのか」を考えることも大切です。

参考文献

  • Morton GJ, et al. The Physiology of Hunger. N Engl J Med. 2025.
  • Sumithran P, et al. Long-term Persistence of Hormonal Adaptations to Weight Loss. N Engl J Med. 2011.
  • Adam TC, Epel ES. Stress, eating and the reward system. Physiol Behav. 2007.
  • 日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022

医師プロフィール

林 祥史 院長
私立灘高校卒/東京大学医学部医学科卒
けやき脳神経リハビリクリニック 院長

資格・所属学会
【資格】 日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医、日本脳血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医

【所属学会】 日本脳神経外科学会、日本脳血管内治療学会、日本脳卒中学会、日本リハビリテーション医学会、日本頭痛学会、日本めまい平衡医学会、American Academy of Family Physicians、Cambodian Medical Association

クリニック情報

けやき脳神経リハビリクリニック

院長:林 祥史(・日本脳神経外科学会認定 脳神経外科専門医・日本脳血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医)
所在地:東京都目黒区下目黒2-14-13下目黒HAPPYビル1~3階(受付2階)
診療科目:脳神経外科・リハビリテーション科・内科
検査設備:MRI、レントゲン、超音波など
公式サイト:https://keyaki-nrc.com/

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